大荒れの天気。
道内では9名の方が猛吹雪で亡くなったが現場周辺はそれほどでもなかった。
伐倒も残すところわずか。
ときおり突風が吹くものの普段どおり作業を行っていた。
あと2本でその現場が終わるという時だった。
ベテランが受け口を彫り、追い口を入れようとするときに風が急に強まった。
すかさずクサビを入れるベテラン。
ふだん彼はマサカリを使わない。現場にあるものでこしらえてクサビを撃つ。
強まる風に彼は近くにいた自分に「マサカリ貸して」と声を掛けた。
まさかりを手渡したとき、風はいっそう強まり木はそのまま受け口とは違う方向にちぎれるようにして倒れていった。
倒れていく方向にはかかり木があった。
「危ない!」
無我夢中で逃げた。
倒れた木はかかり木にあたりずれ落ちるようにして自分の方向に飛んできた。
深い雪に足をとられながらも必死に飛んだ。
飛んだ方向には木が倒れていた。
「まずい・・・」
徐々に雪煙が落ちついてきてあたりが見えてきたとき、自分の足は倒れた木と飛んできた木の隙間にあった。
その隙間はわずか数十センチ。
あと数センチずれていたら俺の右足は粉々になっていただろう。
その瞬間は「よかった~」と安堵したがしばらくして恐怖心が湧いてきた。
その後しばらくはチェンソーを握れなかった。
ベテランも責任を感じたのか、気を遣ってくれたのか「ちょっとやすんどれ」とその後の処理を彼がひとりで行った。
しばらくして最後の1本を「お前やるか?」と彼は言う。
少しためらった。まだ心が動揺していたからだ。
でも、それが彼の思いやりだというのを感じた。
伐倒で怖い思いをしてチェンソーを逃げれなくなることはきっと誰しもが通る道。
それを乗り越えるのはやはり伐倒しかない。
それを彼は知っているからこそ俺に最後の1本を任せたのだろう。
じっくりと時間をかけて、気持ちを集中させて、風が弱まるのを待って、最後の1本を倒した。
やはり、木と向き合うことは真剣勝負なのだ。
その機会を与えてくれたことに感謝する。
そして、無事に済んだことに感謝する。